フロントランナーに聞く、呼吸器グループ 林秀敏 先生編
- Profile
- 林 秀敏
- 近畿大学医学部内科学腫瘍内科
- 宮脇
先生がWJOGに関わるきっかけは、どういったものだったのでしょうか?
- 林
専攻医で5年目くらいの頃に倉敷中央病院で働いており、施設としてWJOGの臨床試験に参加していたことがきっかけです。さらに、グループ会議や臨床試験の中央判定委員会への参加を通して、WJOGの様々な先生方と肺癌診療や臨床試験の話をしていくようになっていきました。WJOGで中川先生や岡本先生に出会ったことが、近大へいくきっかけにもなりました。
- 宮脇
臨床試験への参加から、立案に関わっていくきっかけはありましたか?
- 林
近大に移った後も、引き続き試験への症例登録はしていましたが、試験提案などに関わることはありませんでした。その後、岸和田市民病院へ異動したときに、施設内で上の立場となり、どうやったら臨床試験への症例登録ができるのかをさらに考えるようになりました。そんな中、虎の穴合宿やWJOGの呼吸器グループ会議で、同世代の先生達が試験提案をしていることに刺激をうけ、自分も試験提案をしていきたいと思うようになりました。ちなみに虎の穴合宿ではいろいろな同世代、上世代の先生方の意見を聞きながら数日間同じ時間を共有するという非常に貴重な機会を頂きました。その中で意見の出し方と聞き方、そのバランスなども学ぶことができました。
- 宮脇
先生はこれまでWJOGにおいて、多くの臨床試験を行ってこられましたが、これまでの試験で特に印象に残っているものはありますか?
- 林
選ぶのは難しいですが、やはりWJOG8515L試験*は初めて自分で立ち上げた試験なので、とても印象深いです。Nivolumab承認前のころで、EGFR遺伝子変異陽性例に対して、今後免疫チェックポイント阻害薬がどのような役割を果たすのかがClinical Questionとなっていました。ちょうどWJOGでNivolumabに関連した臨床試験のコンペがあり、いったんは2位と惜しくも不採択になったのですが、そのアイデアを知った企業が興味を持ち支援を頂くようになり再度提案、紆余曲折を経てWJOG8515L試験の実施に至りました。 試験が始まってからは、希少な集団を対象としていることに加え、登録中に標準治療が変わったこともあり、登録が進まずとても苦労しました。この時に、臨床試験を実施する場合は数年後の未来まで見据えて計画することが重要だと痛感しました。一方で、難しい試験であったにも関わらず、WJOGの様々な施設から登録していただき、WJOG施設のつながりの強さを再認識し、とてもありがたく感じたことを今も思い出します。
*T790M変異以外の機序にてEEGFR-TK)に耐性化したEGFR遺伝子変異陽性非扁平上皮非小細胞肺がんに対するニボルマブとカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法を比較する第Ⅱ相臨床試験
- 宮脇
これまで多くの臨床試験の実施に関わってきましたが、臨床試験を発案していく“コツ”のようなものはありますか?
- 林
抄読会などを通して基礎的なエビデンスや他癌腫での治療開発をもとにして着想にいたることがあります。また、実地臨床を行う中で、正解がみつらないことにぶつかったときに臨床試験に結びつくことがあります。常に解決すべきClinical Questionがないか意識していくことが重要だと思います。
- 宮脇
林先生がWJOGで関わっているお仕事について教えてください。
- 林
まずはWING(WJOG呼吸器グループ若手会)の立ち上げにかかわったことです。当時の呼吸器グループ委員長だった山本信之先生に、若手の横のつながりを強め、次のWJOGを担っていく若手を育てていく会の立ち上げを指示いただいたことがきっかけでした。今年5月でWINGを卒業しましたが、WINGを長く続いていくものにするための基礎となるシステム作りができたかなと思います。 呼吸器グループのアドバイザーも大きな仕事の一つです。自分の施設からの試験提案だけでなく、他の先生方の試験提案に対する適正な評価や、WJOGの臨床試験へ症例登録を積極的に行っていくことに努めています。 もう一つの重要な仕事がWJOGバスケット委員会です。必要とされる臨床試験を実施していくためのディスカッションを繰り返しながら、より良い仕組みづくりをできるよう努めてきました。幸いにも、これまでに4つの医師主導治験試験の実施に至っています。グローバルにおいても、バスケット試験を医師主導で行うことは極めて稀であり、WJOGの国際的なインパクトを高めていくことに繋げていきたいです。
- 宮脇
WJOG若手の先生、およびWJOGに入ろうかと考えている若手の先生へのメッセージをお願いします。
- 林
WJOGでの臨床試験を通して、患者さんの治療成績を向上できるよう共に頑張っていきましょう。臨床試験に参加し、プロコールを読み込んでいくことが臨床力を高めることにもつながるし、自分が試験を立ち上げていときにも重要になってくると考えます。 また、基本的なことですが、カルテ記載も重要だと思います。自分も、正確で簡潔な記載を地道に行っていくことを若手時代から心がけていました。分かり易く正確な情報を共有できるカルテ記載をすることで、正確なEDC入力にもつながり、最終的にはClinical Questionの構築や臨床試験提案にもつながっていくのではないでしょうか。
- 宮脇
先生ご自身のWJOGにおける今後の活動の抱負を教えてください。
- 林
1以前と比べて登録に苦労する臨床試験が増えてきて、研究者主導の試験が行いづらくなってきていますが、研究者主導でないと解決できない課題がまだまだあります。例えば、原発不明癌に対するNivolumabの適応拡大は不可能と考えられてきましたが、NivoCup試験を実施し、患者さんのメリットになるエビデンスを構築するに至ることができました。
今後も、研究者の立場だからこそ可能な、患者さんの治療成績につながる試験に努めていきたいです。